死因贈与契約を公正証書にする方法。
司法書士の手塚宏樹です。我々は公証役場には、会社設立にあたって定款認証のために訪れたり、公正証書遺言の作成の立ち会いのために訪れたりするので、かなり馴染みのある場所です。
しかし、一般的にはなかなか行く機会がない場所でしょう。
公証役場では、公正証書という非常に強力な書類を作成することができます。死因贈与契約も、公正証書にすることによって大きなメリットが得られるようになります。
目次
公正証書とは
そもそも公正証書とは何でしょうか。お金の貸し借りをしたとき、離婚したとき、遺言書をつくるとき、などに利用されるものですが、いずれも、当事者同士で契約書を作成することでも法律的には問題ないわけです。当事者同士で、ワープロソフトで作成した契約書(私文書)でも有効です。
しかし、契約書や遺言を公正証書にすることによって、その効果が変わってきます。
また、公正証書は原本が公証役場に保管されるので、紛失してしまっても再発行してもらうことができます。
効果はどう違うのか
金銭消費貸借契約
お金の貸し借りの契約(金銭消費貸借契約)を、私文書で作成しても良いですし、のちのちの証拠となりますが、もし将来、お金を返してもらえなかったときに、債権者としては裁判を起こしてそれに勝利して初めて債務者の財産を差し押さえることができるわけです。
しかし、公正証書にしておけば、債務不履行があった時点で、いきなり債務者の財産に強制執行をしかけることができるのです。裁判をする必要がありません。
「債務者は、本公正証書記載の金銭債務を履行をしないときは、直ちに強制執行に服する旨陳述した」というような文章が書かれています。
遺言
遺言の場合は、自筆で書いた遺言書も法律で認められていますが、法務局の保管制度を利用するか、または、相続発生後に家庭裁判所の検認手続きを経なければ、相続手続きで使うことができません。
これも、公正証書にしておけば、法務局も家庭裁判所も関与させることなく、相続が起こったあとに即座に使うことができます。
死因贈与契約
相続に関係あるものでいうと、死因贈与契約書も、公正証書にすることで大きく効果が変わってきます。
死因贈与契約は2回、登記をする場面があります(死因贈与契約そのものは1回するだけです)。
- 契約を締結したときに、「仮登記」をする
- 相続が発生したときに、「本登記」をする
公正証書にすると、1の仮登記をするときに、贈与を受けた人が単独で申請をすることができます。
2の本登記の際は、公正証書にしておけば、贈与した人(亡くなった人)の印鑑証明書またはその人の相続人全員の印鑑証明書がなくても登記手続きをすることができます。
※私文書であっても、死因贈与契約書を作成したときに、贈与した人の印鑑証明書を添付しておけば相続人全員の印鑑証明書は必要ではないのですが、万が一、印鑑証明書を紛失したり、契約書そのものを紛失したりしてしまうと、手続きが非常に面倒になります。すべての相続人の協力が得られないと本登記をできない可能性もあります。公正証書ならば相続人の関与は不要です。また、公正証書は原本が公証役場に保管されていますので安心です。
死因贈与執行者を必ず定めておくこと
死因贈与契約については、その内容を実現するための執行者を定めることができ、必ず定めておいたほうが良いです。執行者を定めることによって、相続人の関与を不要とできます。
公証役場はどこにあるのか
公正証書は、日本全国の公証役場で作成することができます。下記のサイトをご参照ください。
公証役場には、公証人と呼ばれる人とそれをサポートする書記がいます。
公正証書作成の流れ
それでは、死因贈与契約をはじめとして公正証書を作成するための手順、流れをご説明します。
事前の公証役場(公証人)とのやり取り
公証役場にいきなり訪れても、手続きをしてくれることはないでしょう。事前に契約の内容について打ち合わせをして、署名押印のために訪問する日時を予約して、という流れになります。
死因贈与でも、お金の貸し借りでも、遺言でも、離婚でも、いずれも事前にメールやFAXで契約書の原案を公証役場に送っておきます。公証人が複数在籍している公証役場ですと、その時点で担当の公証人が決まり、以後はその方とやり取りを進めていくことなります。
我々のような司法書士や、弁護士、行政書士、税理士などが公正証書の作成について代行することがありますが、その場合は、すべての公証役場とのやり取りはそれらの専門家がお客様に代わって行います。
専門家に依頼しない場合は、債権者でも債務者でも、どちらの立場の人が公証人とやり取りをしてもかまいません。
何度か公証人と契約の内容について質問と回答のやり取りをして、内容を固めていきます。
必要なもの
- 当事者の印鑑証明書
- 実印
- 当事者が法人ならば法人の印鑑証明書、登記事項証明書(ネットで取得できる登記情報では不可)
- 法人印
- 不動産の登記情報または登記事項証明書
- 本人確認書類(免許証など)
- その他、公証役場から別途指示がある場合があります
費用の確認
公正証書の作成手数料は、その契約にかかる金銭的価値の価額によって決まります。100万円についての契約と1000万円についての契約だったら、後者のほうが手数料は高くなるということです。
具体的には日本公証人連合会のこちらのページをご参照ください。
契約の内容が固まったら、その後、公証役場から見積書を入手することができます。
当事者出頭が基本
死因贈与契約であれば贈与者と受贈者、金銭消費貸借契約であれば債権者と債務者、遺言であれば遺言者本人が、それぞれ必ず出頭して公証人と面談をします。ただし遺言の場合は、公証人が病院などに出張してもらうこともあります。
遺言の場合は必ず本人が公証人と会わなければなりませんが、金銭消費貸借契約などでは代理人に依頼して本人は公証役場に行かないこともできます。
その場合、委任状には契約書の全文をホチキスでとめて、いわゆる白紙委任状ではないようにしなければなりません。
申込み
公証役場は平日の日中しか空いていませんので、その中で予約を入れることになります。忙しい公証役場ですと、なかなか予約がとれないこともありますので、スケジュールの相談は早めにしておくことをお勧めします。
当日の流れ
予約の当日は、次のような流れで進んでいきます。所要時間は、どの種類でも30分程度かと思います。
待合スペース
公証役場には待合スペースがありますので、早めに行ってそこで待っていることができます。余裕をもって訪れるようにしましょう。
当事者が揃い、時間になったら応接室またはブースへ呼ばれ、公証人がやってきます。ただし、遺言の場合は付き添いの家族の方はこの先は同行できません。
本人確認
当事者が印鑑証明書を提出し、免許証などを提示して公証人が本人確認をします。
読み合わせ
事前に公証人とやり取りして内容を固めた契約書を、公証人が読み上げていきます。内容に間違いがないか、当事者が内容をきちんと理解しているかを確認していきます。
先日、金銭消費貸借契約に立ち会ったときは、「連帯保証人というのはどういう責任を負うのか理解していますか?債務者の方がお金を返さないときに、はじめてあなたに返済の義務が生じるわけではなくて、立場的には債務者と同じですよ」とか、「期限の利益を失うというのはどういうことかわかりますか?弁済期まで待たずにすぐに返済義務が生じるということですよ」などと丁寧に説明されていました。このあたりは、公証人によって違いますね。
署名押印
当事者が内容を確認して問題ないということになれば、公正証書の原本に署名、そして実印で押印します。ちなみに、原本以外の書類には署名も押印もしません。
原本→公証役場に保管される
謄本→当事者がもらえる
原本はこの世に1通しか存在しません。署名押印するのはそれにだけです。謄本は、原本の写しということです。謄本には㊞と印字されているだけで実際にはハンコは押しません。当事者の手元にあるのはハンコの押されていない公正証書ということになります。
公正証書遺言も同様で、遺言者本人の手元には署名押印のないものが渡ることになります。
料金を支払う
最後に、現金で公証役場の手数料を支払って、謄本を受け取り、すべての手続きが完了となります。
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