司法書士が教える遺産分割協議書の書き方
司法書士の手塚宏樹です。相続の手続きを行うときに欠かせない遺産分割協議書についてご説明します。
目次
遺産分割協議書とは
亡くなった方の財産を、法定相続人がどのように分け合うかを決定し、それを書面にまとめたものです。
相続手続きで必要
亡くなった方が不動産を保有していたら、その名義を変更するために法務局で登記手続きをする必要があります。亡くなった方の金融機関の口座を解約するために、窓口で手続きをします。
遺言書があれば遺産分割協議書は不要
不動産の登記や、金融機関の解約などの場面で、遺言書があれば遺言書を提出し、遺言書がなければ遺産分割協議書を提出することになります。
遺言書があっても記載されてない財産があれば遺産分割協議書が必要
遺言書に、不動産の相続について記載があっても、預貯金について口座を持っているのに全く触れられていない、ということがあれば、預貯金の解約をするときには遺言書は使えません。預貯金についての遺産分割協議書を作成することになります。
遺言書と異なる遺産分割協議もできる
相続人全員が同意をすれば、故人が遺言書を書いていたとしても、たとえば相続税の関係で有利なように遺産分割協議をするなどということは妨げられません。しかし必ず相続人全員の同意が必要です(そもそも遺産分割協議には相続人全員が同意しないといけませんが)。
相続人が1名の場合は遺産分割協議書が不要
相続人が1名の場合は、「協議」ということがありえず、そもそも、亡くなった方の財産はその人がすべて相続することになるので、「誰がどの財産を取得する」という内容の協議書は不要なわけです。
ですが、相続人が複数の場合は、遺産分けの内容を明確にするために、また、それを証明するために協議書を作成することになります。
確認すること
遺産分割協議書を作成するにあたり、確認することは以下の点です。
- 相続人がこれで全員なのか
- 相続財産はこれで全てなのか
相続人はこれで全員か
遺産分割協議には、相続人全員が賛成しなければ成立しません。したがって、亡くなった方の法定相続人が「ほかに存在しない」ということを確認しなければなりません。
そのために、亡くなった方の「出生から死亡まで」の記載の戸籍謄本等をすべて集めて、相続関係の調査をします。相続手続きでは、この資料の収集がかなりの時間を使うところです。また、法定相続人が遺産分割協議書作成の時点で生存していたのか、ということも確認します。
もし、法定相続人も続けて亡くなっていたり、被相続人よりも先に亡くなっている人がいれば、遺産分割協議書に参加すべき人が変わってきます。
遺産分割協議書に参加すべき人が参加せずに作成された協議書は無効になりますので、戸籍謄本等の調査には専門家も相当に神経を使うところです。
→(ご参考記事)相続できるのは誰?法定相続人の基礎知識。
(ご参考記事)相続に必要な戸籍謄本の集め方
相続財産はこれで全てか
相続財産をすべて洗い出して、「これで全部だね、じゃあ兄貴は不動産を、僕は預金を」ということでバランスのとれた遺産分割協議をすることができるのですが、将来、あらたに財産が見つかったとすると、あるいは負債が発覚したとすると、前に行った遺産分割協議書について「そうなると話が違ってくる」ということにもなりかねません。
たとえば不動産を売却するために、意図的に不動産のみについて記載した遺産分割協議書を作成することは可能ですが、あとから発覚することがないように全ての財産を調査することが肝要です。
遺産分割協議書の作成方法
PCで作ってプリントアウトでも大丈夫
法律的に、様式が決まっているわけではありませんので、自由に作成することができます。PCで作成しても大丈夫です。この点、遺言とは異なります。遺言は民法の定める方式に従わないと無効となってしまいます。
→(ご参考記事)相続専門司法書士の「遺言のすすめ」
書き方に決まりがあるわけではないのですが、協議書を受け付ける法務局や金融機関が、それでもって手続きをしてくれないと困ります。法務局や金融機関でスムーズに手続きをしてもらえるように書かないといけません。たとえば、不動産を記載するのであれば、登記簿のとおりに「所在、地番、地目、地積」を書くべきでしょう。
そして、一部の相続人だけで協議をすることはできませんので、相続人全員が署名押印することになります。
司法書士タイプでも税理士タイプでも
ちなみに、私は司法書士ですので登記の目線で協議書を作成しますが、税理士さんは税務署に提出することを念頭におくため、我々とは少々体裁が異なることがあります。もちろん、内容に問題がなければどちらが作成したものでも、法務局でも税務署でも受け付けられます。
押印は実印で
法律的に求められているわけではありませんが、協議に参加した相続人全員が署名をし、実印で押印をします。法務局や金融機関では、遺産分割協議書とともに相続人全員の印鑑証明書も求められます。「本当にその人が、内容に納得して署名押印したのか」ということを実印+印鑑証明書で確認するわけですね。
印鑑証明書を求められるので実印でなければなりません。また、印鑑登録をしていない人は、市役所等で印鑑登録をしたうえで印鑑証明書を取得しなければなりません。
司法書士にとっては、書類に押印するのは日常的なことですが、多くの方はそれほど印鑑を押す機会はないのではないでしょうか。荷物の受け取りのシャチハタくらいは押すが、実印となると何年に一回、すらもないかもしれません。
法務局や金融機関では、書類に押された印影と印鑑証明書を照合しますので、鮮明に押印しなければなりません。多少のかすれは大丈夫でしょうが、あまりにも薄いと押印し直すことを要求されるかもしれません。絶対にダメなのが二度押しです。「あ、失敗した」と思って、その上から押すのはやめましょう。失敗した印影に重ならないように、その周辺の空いているスペースにあらためて押印すればそれでOKです。
署名でなく記名でもよい
協議書の末尾には、相続人全員が署名して押印するのが一般的ですが、記名でもかまいません。
つまり、印字されたものでもOKということです。PCで作成して、実印を押印すれば一応、協議書としては完成します。しかし、字が書けない人にとっては有用だと思いますが、多くは自筆での署名がなされているかと思います。
捨印には神経質になる必要はない
軽微な間違いがあったときには訂正印を押しますが、あとから訂正印をもらうのが大変だということで、あらかじめ押しておいてもらうのが捨印です。
私たち司法書士も、書類に捨印をもらうことは一般的ですが、捨印で訂正できるのは本当に軽微な部分だけです。不動産を相続する人を、AさんからBさんに変える、というような大きい訂正は認められないと考えてよいでしょう。
何部つくったらいいのか?
相続人全員が1通ずつ保有できるようにする、というのが一般的でしょうが、「わたしは別にいらない」という人がいたら、それはそれで差し支えありません。兄と弟の2人が相続人で、自宅は兄が相続するという内容の協議がととのったとき、法務局に提出する1通だけあれば、とりあえず事足ります。法務局の手続きが終わったら、協議書の原本は戻ってきますし、弟にはそのコピーを渡すということでも問題ありません。
揉めにもめて、やっと話し合いがついたような場合は、全員ともが原本を保有できるようにしたほうが良いでしょうね。
相続人が遠方に住んでいる場合
郵送で遺産分割協議書を送って各相続人の署名・押印、印鑑証明書を集めるということはよくやりますが、相続人の人数が多い場合には、一人ずつ進めていくとかなりの日数がかかってしまいます。
そのようなときには、1通の遺産分割協議書に連名で署名押印するのではなく、全く同じ内容の協議書を1通ずつ各相続人に対して送り、それぞれ自分の名前を書き、押印をして返送していただければ、数日で全員分が揃うことになります。必ずしも、1通の書面に連名形式で署名をする必要はないのです。
当事務所に遺産分割協議書の作成をご依頼いただいた場合の費用
ご相続人の方々ですでに合意がとれている遺産分割協議書の作成は30,000円です。
分割方法などについてアドバイスが必要なときには、別途お見積りとなりますが、上限は70,000円程度とご予定ください。
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