相続専門司法書士の「遺言のすすめ」
司法書士の手塚宏樹です。東京・小平市で相続案件をメインに仕事をしております。遺言のご相談は、税理士さんなどからのご紹介もありますし、ホームページなどからのお問い合わせも多いです。
目次
遺言と遺書は違う
世間一般的には、「遺言」と「遺書」という言葉は同じように使われている気がします。「遺言書」という言葉もありますね。「ダイイングメッセージ」といったら古典的な推理小説ですね。しかし、「遺言」というのは法律で明確に定められているものです。民法という法律に規定があります。
第960条
遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。
「遺言」は、民法で定められているやり方に則って作成しなければ、法律上有効ではないのですね。そうでない、「遺書」は自由に書いて差し支えないわけです。自分が逝ったあとは、子どもたちは兄弟同士仲良くしなさいとか、家族に感謝の意を述べるとか、なにを書いてもいいです。それに対して、「遺言」は主に財産を誰に相続させるか、ということを記載します。ほかにも遺言の効力はいろいろありますが、多くの場合は、不動産や預金を相続人のうちの誰にどのくらいあげるか、または誰にはあげない、ということですね。それが「遺言」です。
遺言の種類にはどんなものがある?
これも、じつはけっこうたくさん種類があるのですが、メインは2つです。特殊なものは専門家と受験生が知っておけばいいだけです。沈みゆく船のなかで書く遺言のやり方とかそういうのも民法で決められているのですが、そんなタイタニックのようなことが起こったときに私は遺言なんか作りたくありません。もしそんなことになったら、ベッドで抱き合っていた老夫婦か、最後まで演奏し続けた楽団のように最後のときを過ごしたいと思います。遺言は平常時につくっておくべきです。
で、遺言の大事な2つとは、自筆証書遺言と公正証書遺言です。この2つは知っておくべきです。
自筆証書遺言とは
自筆証書遺言とは、簡単に言いますと、自分で紙とペンを用意して自由に書くものです。ただし、自由にとはいっても、内容は民法の定める様式に従わなければなりません。従わないと無効です。誰でも書くことができますが、しっかりと書き方を理解していないと無効になり、遺言をのこした意味がなくなってしまうので、専門家の目を通すことは必須ですね。我々司法書士も遺言についてのアドバイスは得意です。自宅の不動産を相続させる、という場合には司法書士にいちど見てもらうのが良いです。不備があると、法務局での登記手続きがうまくいかないことがありますので。
→自筆証書遺言についてさらに詳しくはこちら
公正証書遺言とは
公正証書遺言とは、「公証役場」というところで作成してもらう遺言です。公証役場には「公証人」という人がいて、その人のお墨付きをもらうイメージでしょうか。もし、相続人同士で争いになった場合、自筆証書遺言の場合は、遺言者本人が書いたという絶対的な確証は筆跡くらいしかないと思います。書いている様子をビデオで撮影していればまた別かもしれませんが。しかし、公証役場では本人確認をしていますので、本人の意思で作成されたということが、自筆証書遺言よりは担保されますね。でもじつは公証役場の本人確認というのも、印鑑証明書を提出させるだけなので、それほど厳格なわけではないですが。。しかし、自筆証書遺言よりは公正証書遺言のほうが数段、間違いのない遺言といえます。
→公正証書遺言についてさらに詳しくはこちら
遺言ってどういうときに使うの?
遺言者が亡くなったあと、その人が持っていた財産(不動産や預金)を相続人に引き継ぐ手続きをするときに、銀行や法務局に提出するときに使います。ですので、銀行や法務局が受け付けてくれるような書き方にしなければなりません。専門的知識のない方が作成すると、いざどこかへ持ち込んだときに、手続きが進まないということがありえるわけです。
遺言がないとどうなるの?
亡くなった方が遺言をのこしていなかった場合は、相続人全員で「遺産分割協議」をすることになります。親が亡くなって、子どもたちが相談して、「同居していた兄貴が不動産をもらって、俺は預金をもらえればいいよ」と話がうまくまとまれば、遺言がなくても問題はありません。遺産分割協議書を銀行や法務局に持ち込んで手続きをします。遺言または遺産分割協議書、どちらかを出すというイメージですね。
遺産分割協議がまとまればいいですが、まとまらないと預金を解約できませんし、不動産の名義変更登記もできず売却することもできません。子ども同士の仲があまりよくなくて、争いが予想される場合には遺言は必須です。
遺言はどういう人がつくるべき?
相続人同士の仲が良くないという場合は遺言を用意すべきです。が、仲が良い場合でも遺言をのこしてあげるのが優しさだと思います。遺言なんてお金持ちの話、という意見もあるかと思いますが、お金持ちは、分ける財産がたくさんあるから分けやすいということもあると思います。「相続財産は自宅の土地建物と、あとはそれほど多くない預金だけ」、こういうご家族のほうが遺言があったほうが助かります。土地建物の額と預金の額が見合っていればいいですが、不動産の価値のほうが圧倒的に高い場合は、なかなか分けるのが大変になってしまいます。「自分が亡くなったら自宅は売ってしまって、そのお金をみんなで分けなさい」ということを指示してもらえば、親ががんばって建ててくれた家だから、などという躊躇もあまりなく売約できるかもしれません。
子どもがいない夫婦
子どもがいない夫婦の場合、どちらかが亡くなると、その人の財産は配偶者と亡くなった人の親が相続人になります。親がすでに亡くなっている場合には、兄弟姉妹が相続人となります。つまり、配偶者が亡くなってしまったら、自分と義理の父母、または、義理の兄弟姉妹が相続人となるわけです。これはちょっと遺産分けの話し合いをするのはしんどそうです。私は嫌です。たとえば、自分が亡くなったら全ての財産を奥さんに相続させる、というような内容の遺言を用意すべきですね。
前の配偶者との間に子どもがいる人
前の配偶者との間に子どもがいて、いまの配偶者との間にも子どもがいる。そのようなご家庭もたくさんあられると思います。そのみなさんで交流があってもなくても、ぜひとも遺言を書いておくべきです。遺留分という問題もありますが、それでも、遺言者の意思は明確に示しておくべきと考えます。
パートナーとの関係が内縁関係の人
法律上の夫婦関係になっていない人も遺言を書く必要があります。財産についてはお互いまったく関係がない、というなら別ですが、自宅にそのまま住んでもらいたいというような場合は遺言がないと大変なことになります。
遺言を遺しておいてくれてよかった!
司法書士として今までご相談を伺ってきたなかで、遺言があって助かった!というケースは何度もあります。上で書いたように、内縁関係のご夫婦で、自筆証書遺言でしたが「自宅は○○に相続させる」と遺してくれていたので、相続登記ができたこともありました。また、本来ならば相続人が10名を超えるのですが、遺言があったおかげで何も問題なく相続手続きが完了できたこともあります。
遺言はぜったいに元気なうちに!
ある夏、三十代の男性から「親が遺言を書きたいと言っているので話を聞いてほしい」というご依頼がありました。お会いしにいき、お父様からどのような内容の遺言を作成したいかお話を伺いました。しかし、その後、ご連絡が途絶えたので、お気持ちが変わったのかなと思い、そのままにしていました。
年が明けた頃、「父が危ないので急いで遺言をつくってほしい」という電話がありました。
私は公証役場に急いで電話をして、翌朝、出張で対応してもらえるか聞くとともに、もしかして明日まで持たないということも考えて、可能ならば自筆証書遺言も書いてもらうほうがいいと、遺言の案文(できる限りシンプルなもの)をFAXで送りました。お父様にこの内容をそのまま書いてもらってください、と。
1時間後くらいに、事務所のFAXがカタカタと動いて、お父様が書かれた遺言が届きました。震えるような字で、見ているだけで心がチクチクしました。息子さんに電話して、「とりあえずこれで大丈夫です」と伝えてその日は仕事を終えました。
翌朝、8時くらいに息子さんから電話があり、「父が亡くなりました」と。遺言があってよかったという思いと、最初にお話をしてから、その後連絡が途絶えてしまったときに、なぜこちらからプッシュしなかったのかという後悔が残りました。
私は遺言を用意しています。結婚したら遺言を書く、そんなことが当たり前になればいいと思います。そのためには我々専門家がもっと広めていかなければなりません。
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