最新の登記簿を反映していない遺言のせいで登記ができず……
遺言に書くべきことは様々ありますが、その中でも自宅を始めとする不動産が書かれることは多いです。
遺言書に不動産を記載するときに注意しなければならないことを登記手続きの専門家である司法書士が解説します。
目次
公正証書遺言でも安心できない
私は司法書士なので、遺言の作成そのものに関与することもあれば、遺言を使っての相続手続きを受任することもあります。
自分が関わった遺言によって相続手続きをするのであれば良いのですが、そうではなく、自分以外の専門家や、あるいは遺言者ご自身が書かれた自筆証書遺言ということもあります。
相続手続きを受任すると、まず遺言の有無を確認します。遺言があればそれに従って手続きを進められるので、遺言がない場合よりもスムーズに進むことが多いです。遺言がないと相続人全員で遺産分割協議をしなければなりませんから。
そして、自筆証書遺言よりも公正証書遺言のほうが安心できます。やはり公証役場を通していますから。また、公正証書遺言には証人2名の立ち会いが必要とされており、そこには職業も書かれています。証人が我々のような司法書士や、弁護士、税理士といった資格者であれば、これも安心材料になります。
公正証書遺言で相続登記をする……はずが
法務局で相続登記をするには申請書とともに遺言書を提出します。そして遺言書に記載されているとおりに、登記がされます。
不動産は登記簿どおりの記載を
自筆証書遺言ですと、不動産の特定が問題となります。「自宅を長男に相続させる」のような書き方ですと、「自宅とはどの不動産のことを指しているのか」ということになります。法務局では、不動産を「地番」や「家屋番号」で管理しているので、遺言のなかでも地番や家屋番号を使って不動産を特定しないといけないのです。
まあ、自宅ということであれば、その他の資料を用意すればたいていは法務局でも認められることになろうかと思います。が、疑義のないように正確に登記簿どおりの記載をしておくのが間違いありません。
問題のある公正証書遺言
まえに相続案件を引き受けたとき、亡くなった方が公正証書遺言を残していたので、比較的ラクな気持ちで仕事をスタートさせたところ、よくよく調べてみると、不動産の記載に問題があることが分かりました。
その遺言書は税理士さんが証人となっており、公正証書遺言ですので公証人も目を通しています。そして、不動産の記載も登記簿のとおりに、地番や家屋番号で特定されていました。しっかりと面積などまで書いてあります。
しかし、その遺言書を作成した時点において、最新の登記簿を参照していたわけではなかったのです。どういうことかというと、
2000年4月1日 登記簿謄本を取得
2000年5月1日 土地の分筆、合筆が行われた
2000年6月1日 公正証書遺言を作成
という具合に、本来ならば、土地の分筆、合筆が行われた5月1日以降に登記簿をとり、その記載にもとづいて遺言に反映させるべきだったのです。
上記の例はとてもシンプルに書いていますが、実際にはいろいろとややこしいこともありまして、法務局と何度もやり取りをしたのですが、結局、問題の不動産の部分については登記ができませんでした。
証人となっていた税理士さんはすでにお亡くなりになっていたので、詳しいお話を聞くことはできませんでしたが、もしご存命でしたら大変だったろうなあと思った記憶があります。
この件のほかにも、遺言の書き方が不適切だったため、公正証書遺言でも登記が受け付けられなかった事例はあります。司法書士の目を通さないと危険だなと感じている次第です。
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