「不動産の名義を変えてほしい」そう簡単にはいきません
司法書士の手塚宏樹です。小平市・花小金井駅南口で平成17年より事務所を開設しております。相続関連のご相談を中心にお仕事をしております。私の事務所に寄せられるご相談で、ときどきあるのが、「自宅の名義を変えてほしい」というものです。ご相談者としては、名義を変える、というのは普通の感覚であろうとは思うのですが、司法書士としてはなかなかすんなりとはいきません。今回はそういったことについて書いていきます。
目次
不動産の名義は登記簿に書かれている
自宅の土地建物の名義がどうなっているかというのは、登記簿を見ればわかります。登記「簿」というように、むかしは紙に書かれたものがバインダーに綴じ込まれていましたが、現在ではほとんどの不動産がコンピュータで管理されていますので、登記簿といってもデータです。その登記簿の内容を記載した登記事項証明書(登記簿謄本)を法務局で取れば、不動産の権利関係がわかります。ちなみに、コンピュータで管理されていますので、日本全国どこの法務局でも登記事項証明書を取得することができます。また、インターネットで登記事項「証明書」ではないのですが、同じ内容を記載した「登記情報」を取得することもできます。これは初期設定が少々面倒なので、一般の方がやろうとすると時間がかかってしまうので、法務局に郵送で登記事項証明書を請求するほうがいいかもしれません。司法書士はどこの事務所もインターネットで登記情報を取得できます。
不動産登記簿には「甲区」という部分があり、そこに「所有権に関する事項」が記録されています。具体的には、所有者の住所氏名が書かれています。ちなみに、「乙区」は「所有権以外に関する事項」です。住宅ローンを組んだときなどに抵当権が設定され、その登記が入る箇所です。
不動産の所有者が複数の場合(共有)は、住所氏名に加えて、それぞれの持分も分数のかたちで記録されています。
どういった経緯で不動産を取得したのか
土地にしろ、建物にしろ、その不動産の現在の所有者は何かしらの原因で不動産を取得したはずです。代表的には、買った、もらった(贈与された)、相続した、建物ならば新築した、などです。
買った、もらった、というのはそれぞれ、売買契約を締結した、贈与契約を締結した、ということです。不動産は法律行為によって権利関係が動きます。売買契約も贈与契約も法律行為です。
夫婦で土地を買って家を新たに建てた、そのときに夫と妻がそれぞれ売買価格の半分ずつを出した、ということであれば持分2分の1ずつとして登記をします。この持分の数字を適当にしてしまうと、あとあと税金面で問題が発生することがあります。あとになって、修正する登記(更正登記)をすることがたまにあります。
不動産の名義を変えるには理由がいる
そうやって、何かしらの理由があって不動産の所有者になっている人が、「ほかの誰か(たとえば家族)に名義を移したい」、と思ったとしてもそう簡単にはできないのです。なぜか。そこに法律行為があるのか?ということが問題になるからです。
「自分も高齢になってきたし、そろそろ子どもに名義を変えてやりたい」、と思ったとします。自分のものだから自由にできそうなものですが、そうはいかないのです。単に子どもにあげる、ということだと贈与になってしまいます。贈与ということになると、贈与税の問題が出てきます。一般的にも知られていると思いますが、贈与税は非常に高額になることがあります。税理士さんを交えてしっかりと検討して、場合によっては何年かの計画で行わなければならないこともあるでしょう。
自分は権利を放棄する、というのもダメです。たしかに、たとえば親が2分の1、子が2分の1の共有で不動産を所有しているとします。親が自分の持分を放棄するということは法律上も認められていて、その旨の登記もできます。持分放棄、という行為があったという理由で登記が可能なのです。しかし、それも税務的には「贈与」とみなされてしまいます。また、共有でなければ、そもそも持分を放棄するということもできません。
ちなみに、離婚によって名義を変更するときは「離婚による財産分与」があった、ということになります。
名義を変える、ことはできるのか?
単に「名義を変える」というご相談には、実体が伴っていない、つまり何の法律行為もない、ことがほとんどです。したがって、本当に名義を変更する必要があるのであれば、そこからさらに税金面も含めてしっかりと検討していく必要があります。名義を変えなくても目的が達せられることもありえますからね。遺言を書いて、そのなかで不動産を誰に相続させるか明記しておくということでもいいかもしれません。任意後見の契約をするのがいいのかもしれません。はたまた家族信託かもしれません。ご相談者のお話をよく伺い、なにがその先の目的なのかをよく把握しなければなりません。
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